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『 高野悦子 』PART2・・・  間人  彰



1話       彼女の世界とは  





『 世界 』つまり「人間が主体的態度で何らかの価値観に基づいて形成したものである。



実体験によって育まれた価値観であって理論的概念ではない」と前作『高野悦子が



遺した歴史』での最終章で達したものです。彼女の遺志が後世の人々に受け継がれる



拠り所を見出したといえます。つまり彼女の遺志を後世の人々が一つの知識とか一つの



情報として捉えてしまうことを避けたいが為に、私が探し求めたものでした。



さらには一過性の思考や行動の素因となる潜在意識のようなものではないことを自分の為に



確認したかったのです。そして今回、普遍的な意識とでも言いましょうか、そういうものを



具体的に明らかにしたいと試みたわけです。皆さんにお願いしたいのは、今日使用されている



世界の意味に固執せずにご自分で『世界』の意味を構築してもらえればより理解していただ



けると思います。





私は六月より詩を初めて作ろうとしてきていますが、作る時にまず心の準備に多くの時間を



要します。平常心で書ける人が羨ましく思いますが逆に書けないことが詩情とは何かを理解



する助けになったようです。平常心では詩情という世界が持てていないのです。





また、ネット恋愛という言葉をよく耳にしますがそれにしても多くの人が関わりなく



過ごしている為に単なるプラトニックな気侭な感情だと考えられています。しかし



ある人にとっては生活行動をその感情から決めているのです。その感情も世界です。



幻想や夢などが多分に介在しているかもしれませんが日々の生活の中で果たす力は



多大であります。潤いというものが絶えることなく注がれているからでしょう。



ネットではありませんが、谷崎潤一郎の若かりし頃、彼の創作意欲のことは幾度か



語ってきましたが特定の女性に捧げる強い意志が働いてのことでした。それはけっして



幻想や夢だけでなく彼がその女性から現実に受け止めたものがあったからでしょう。



何かと言いますと明治の女性達とりわけ教養を身につけ得た人々が一様に備えていた



健気な愛情ではないかと思うのです。それは例えば有島武郎の「或る女」の主人公が



持つ献身的情熱であろうかと思います。人の妻になれば芽生えない今日的な他者への



情愛ではなくて、広く人を愛するという情愛の存在を私も祖母の生き様の中に



みたことがあります。存在していたのです。今も稀ではありますが引き継がれていると



思います。一方、男性においてもありうることです。不倫においてもその素因の一つに



あるのですが、快楽とか現実に流されて意識として浮上発展しないまま隠れているの



ではないかと考えます。要は認識し得るかどうかによってその感情は世界として



成立することと言えるでしょう。







世界観が規範になることもありますが、それは変動するものと考えます。ただ体験が



繰り返された時に世界として心の中に地歩を固める場合がある為に世界観と錯覚



するのだろうと私は考えます。





では、高野悦子が持とうとした世界とはどういう類であったのだろうか。



一つは、社会や大学への働きかけの為の行動規範になるもの



二つ目は、自立の為のもの



三つ目は、人間の弱さを克服する為のもの



と、取りあえず私は分けて考察していきたいと思います。それは彼女自身が日記のなかで



記しているように未熟な為にあるいは時代に翻弄されていたが為に自らの世界を捉えきれて



いなかったからです。ノンセクトや無関心層と称される学生の中には、卒業して就職する



という強い世界観がありました。彼女はその世界観の根さえも否定してしまっていたのです。



根とは育てた社会であり、家庭であり、共に過ごしたかっての友人達です。



当時の活動家でなくともその傾向はありました。事実この私も学生時代の友人に絶縁状のような



手紙を送りました。有言実行という諺がありますが、自らの行動を位置づけるには自らをまず



正当化しなければならないと考えたのです。それほどに周囲の目が冷ややかに注がれて



いたのです。批難・陰口・批評・傍観の為の正当化なども含めて。



現在のいじめ問題の背景が当時もありました。





最後にもう一つ付言するなら、世界観としなかった理由です。



アイデンテティが確立していない段階では世界そのものの中にカオスが多分に含まれて



いるからです。それは世界観として意識できないからで、そういう例の方が多いはずです。



例えば、人に暴力を加えた理由が答えられないとか、何故あんな言葉を浴びせたのか



後になっても理解できないとか、選んだ理由に自信が持てないとかもそれが原因でしょう。



信仰心の強い人は概ねそれでも世界観と同様に扱うことができますが、そうでない人は



常に揺らぎ固定できませんから世界観とは言えないのです。今日的にいえば、マインド



コントロールが効き難い人と言えます。彼女が太宰治の作品を読んで怖いと感じたのは



より揺らぐ自分を覚えたからだと思うのです。





以上を踏まえた上で、彼女の世界を具体的に次の章から述べていきます。



但し、これから展開していく内容はあくまで私の憶測の域でのことであります。



何故なら彼女自身その世界を充分に意識して持ち得なかったからです。その段階で



口惜しいことにこの世を去った。生前断続的に現れ捉えようのない浮遊物としてあったけれど



世界は存在していたと考えます。それを確かめる作業をこれから為そうというのです。



それらを明らかにした時点で、ならば何と何が整っていれば彼女を死に導かなくても



よかったかを示したいのです。その上で『世界』というものの正体が明らかになるのでは



ないかと、さらに言えば人間としての普遍的問題を考えるヒントになりうると考えています。



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